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熱中人File.2 中澤丈氏

熱中人File.2 株式会社SpEED代表取締役 中澤丈 氏

関西のテレビ業界の映像編集ポストプロダクションで、この人ありと言われた"スゴ腕編集者" 中澤丈 氏(50)。
2007年にポストプロダクション『株式会社SpEED』を設立し、VTR編集、ノンリニア編集などで数々の番組編集を担当。その神業ともいえる素早い作業と的確な提案で業務を拡大していく。
「ポストプロダクション」とは番組を編集した後に、文字(テロップ)を入れたり画像を補正したり、テレビ番組の最終の仕上げをするとても大切なアンカーです。
2021年に、会社の業務を後進に譲り、家族共々沖縄県の石垣島に移住。大自然の中で子育てを楽しみながら、映像編集を継続している。
社員に業務のほとんどを譲り、家族との移住という道を選んだ中澤氏の「価値観」は見習うべきことが多くある。「日本最南端の編集プロダクション」を自負する中澤氏に話を聞きました。

Q.移住してまだ数ヶ月ですが、そちらの生活はどうですか?
 めちゃくちゃいいですよ。みんな穏やかですね。街がとても小さいので何するにしても便利です。今日も子供を幼稚園に送ってからずっと仕事をして、無駄なくゆっくり過ごせています。昨日は家族4人でダイビングに行ってきました。めっちゃ良かったですよ。もう顔つけただけで魚がわーっといますからね。

Q.大阪で会社を経営していて、そこから石垣の方へ移住するっていうのは一大決心だと思うのですが?
 人に、子育てって10歳までだよって聞いたとき、うちの子供は5歳と2歳でしたから、これは仕事してる場合じゃないぞと。ちょうど仕事と家庭のバランスをちょっと家庭のほうに重きをおきたいなと思っていたときでしたから。会社をつくるとどこかで終わり方を考え始めます。人生の着地点といいますか。今年50歳になったのですが、今までを振り返って20歳から30年間編集しかしてこなかったのを「人生経験として面白くない!」と思ってしまった。他の人は、若い頃にバックパッカーしてたり、職業も転職してたりと色々あるじゃないですか。そう考えるとこの仕事一筋というのはどうかなと思いまして。

Q.大阪時代のお仕事の内容を教えてください。
 読売テレビの「す・またん!」、毎日放送の「せやねん!」「住人十色」という番組。関西テレビは特番をたまに、ABCは「探偵!ナイトスクープ」をたまに、NHKさんは国際放送をやっていました。あとは、AbemaTVとかアイドルの乃木坂46出演のドラマ・番組DVDのメイキング映像の編集したりとか。

Q.その中でも印象に残っている仕事はありますか?
 思い入れが強いのは毎日放送の「住人十色」という番組です。2007年に会社を設立して、初めてもらったレギュラー番組の仕事です。それからずっと一本も欠かさずに510本ぐらい私がやった。初めてのレギュラーの仕事ですし、自分で500本以上欠かさず手をかけてきた思い出がある番組ですから。

Q.中澤さんがやっていた番組の最終加工ポストプロダクションという仕事のやりがいや喜びはどういうものがありますか?
 番組作っていく過程で、ポスプロ編集って一番最後のところ。そこで番組が完成するわけです。プラモデルを組み立てていて最後の仕上げをやるところ。そこが一番楽しい。テロップの入れ方やデザインで番組のクオリティや番組全体の色も全然変わってくる。料理の盛り付け方で牛丼になるのかステーキ丼になるのかっていうところを触れるのは作ってる感があるところでね。

Q.SpEEDがいろんなテレビ局から発注を受けるようになった大きな要因は何だったと思いますか?
 2007年のこの業界はほとんどテープ編集だったんですが、ディレクターの仮編集っていうのはもうノンリニアのFinal Cut Pro(編集ソフト)になっていたんです。それをテープを介さずに同じノンリニアソフトで編集すれば確実に速くなります。なおかつ、当時テープの編集室を作るといえば1億円かかるといわれていた時代です。それがノンリニアならそんなにかけずにできるので、単価が下げられる。
スピードが速くなって単価が他よりも安いということで、ディレクターたちも皆びっくりした。
 
当時、技術者の間では「Final Cutみたいなヨドバシカメラで売ってるようなおもちゃで何ができるんや!」という考えの人も多かった。しかし、その人たちが知らない間にノンリニアのクオリティはどんどん上がっていたんです。今ではテープで編集するところなんて、関西では1つもないほど、ここ5年位で全て変わってしまった。そこの最初の波に乗れたのは1番大きかったかなと思います。あとは大手がうちと同じようにノンリニアを入れれば、うちみたいな小さなところはひとたまりもない。そこに勝つにはどうすればいいのかと考えたのです。
 実は、ノンリニアはテロップを入れるのに時間がかかっていたのです。テロップ1枚つくるとそれに名前を付けて決まったところに保存する。それを編集のほうに渡す。これが10秒ぐらいかかるんです。10分のVTRを作るのに150枚から200枚位のテロップが入ってくるので、その累積時間は大きい。それをボタン1つ押せば勝手に編集機のほうにポンと飛んでいくようにすれば1秒でできる。そのソフトを自分で作りました。

Q.自分で作ったのですか!?
 そう、もうめっちゃ勉強しました。プログラミングなんか全くやったことないのに、必死で勉強して作りました。そのソフトは今でも使ってますよ。そこはディレクターさんには見えない部分なんですけども、来た人は「他のとこよりもSpEEDに来るとなぜか早く終わる」という声が上がるようになった。そうやって自分でプログラムを作ったっていうことは今考えると大きなことだったと思う。

実は、インタビューをしている私も中澤氏と同じ業界で働いており、中澤氏の会社SpEEDにもよく行かせていただいていました。

Q.SpEEDの成功理由として、もう一つ大きなところは、他のポスプロとは比べ物にならないくらいセンスが良かった。それが大きいと思うのですが。
 それをいうと、当時テロッパーっていうと編集マンになる前段階の若手がやる仕事だというふうになっていたんです。それを私はあえてデザイナーを募集したんです。デザイナーとしてクオリティの高い人を雇っていたんです。デザイナーは編集はしなくてデザイナーだけで生きていく。だから給与も編集者と同等、もしくは編集者よりもデザイナーの方が高いという風にしていました。そこは大きかったかもしれないですね。

Q.それは知りませんでした。当時、特に報道は文字がわかれば良いという風潮の中に、中澤さんはセンスの良いテロップを報道にも持ち込んだ。そこはすごく画期的なことだったと思いますよ。
では今現在の仕事の状況を教えていただけますか?
 まぁボチボチやってる感じなんですけども、大阪NHKさんの国際放送では出来上がった英語版の番組を、他言語版とかにテロップを入れ替えていくお仕事をしています。翻訳さんが原稿を上げてくれるのでその通りにテロップを入れ替える作業です。日本の文化を世界に発信する番組で、英語版からスペイン語、ポルトガル語、中国語、ベトナム語、ミャンマー語の5つを作ります。NHKとのやりとりはリモートで、完成版はクラウドにあげて渡しますから大阪と石垣島でも全然スムーズに仕事ができます。
 またあとは、こっちに来る前に移住相談会みたいなところに参加していたのですが、移住支援のYouTubeチャンネルを助けてほしいと言われてそれもやってます。それで今は島でロケにも行ってます。あと面白いのは、いま新潟放送の番組をやっています。新潟放送の土曜日のお昼にやっている情報番組のワンコーナーですが、新潟でロケし編集したものを石垣にデータで送ってもらって私がテロップを入れる。次はそれを東京に送ってタレントたちがそのVTRを見てあれこれ話すのを収録して、また石垣に送ってくる。それを一本に編集して新潟に送り放送する。面白い世の中になってきているんです。

Q.それは面白い動きですね~。中澤さんはポスプロの編集としてプロ中のプロですけども、中澤さんが思うプロフェッショナルっていうのは?
 プロフェッショナルかどうかわからないですけども、僕の師匠から言われていたのは「オペレーターになるな!」ということ。ディレクターに言われた通りやるのはオペレーターだと。ディレクターに「すごいな」と言わせないとダメだと。ディレクターから「すごいな」と言われるなんて100回やって1回あるかどうかなんですけども、そこを目指す気持ちをずっと持ち続けられるかどうか。もっとこうしたらいいんじゃないかというものをどんどん出し続ける向上心を持たないとダメだと思うんです。視聴者は目が肥えてくるので昨日100点だったものは明日にはもう80点しか取れないと思うので、向上心は常に持っておかないとダメだと思います。

Q.これから中澤さんのような編集者を目指したいというような若い子たちにアドバイスできることってありますか?
 いやぁー、若い子たちよりも今上にいる人たちの考えを変えないとどうしようもないと思います。徹夜して仕事するのがかっこいいと思っている業界人がいまだにいます。そこの考えを変えないと。仕事するっていうのは、ちゃんと生活ができて仕事も面白くなくては。生活が苦しくて仕事が徹夜ばかり、そんなの若い子らはついてこない。若い子たちには趣味の延長としてやってほしい。僕なんか全力で趣味をやっててお金もらえて最高!っていう気持ちで今いますから。これだけ全力で趣味をやらせてもらえてお金払わないとあかんものを、もらえるのって。そこを上の人たちが考えて、環境を作ってあげて欲しい。

Q.これから先の夢とか目標があれば聞かせてください。
 いま僕がやってるリモートで仕事するっていうのがどんどん当たり前になっていきます。ディレクター立ち会いでやる仕事と、リモートでやる仕事と両立して進んでいく世の中になっていくはずです。そこをもっと広めていけたらなぁと思っています。
 僕はテープ編集の時代にノンリニアに早く切り替えたことが良かったわけで、それと同じように早めにリモートというものをやっていくことを考えていくのが大事だと思うし、そこを今模索しながらやっているところです。そういうことが全国で形になっていけば、それは面白いなと思っています。
                              (2021年9月取材)

50歳とは思えない若々しい笑顔で答えてくれた中澤さんの表情からは、心底人生を楽しんでいる充実感が溢れているように見えました。インタビューの最後に、移住の決断は正解だったと思いますか?と聞いたところ、
『正解かどうかはまだわからないですけども、やらずに後悔するんだったらやって後悔しようと思うようにしている』
という言葉が印象に残りました。
石垣島から日本全国に新風を巻き起こしてくれるはずです。プロの道を究めた人の考えは凄いなと、感心しきりのインタビューでした。
彼のこれからの動きに注目です!

『株式会社SpEED』
http://speed-tv.jp/
◆HEAD OFFICE
大阪府豊中市東豊中町3-16-18
◆ISHIGAKI OFFICE
沖縄県石垣市平得58-4 J.TERRACE10

中澤丈さん(1971年生まれ)
「SpEED」の編集室
大自然の中で育むお子さんとの素敵な時間が伝わってきます
石垣島 息を吞む美しさです