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熱中人File.1 恒遠樹人氏

熱中人File.1-2 「平和の種」代表理事 恒遠樹人 氏

社会をたのしくする障害者メディア「コトノネ」Vol.39に、『熱中人』としてご紹介した恒遠氏の記事が掲載されました。(画像をクリックすると拡大します)
雑誌「コトノネ」Vol.39
「平和の種」の記事

熱中人File.1 「平和の種」代表理事 恒遠樹人 氏

福岡県豊前市の田畑が広がる自然豊かな一角に、その施設はあります。旧川内小学校跡に、2019年に設立されたNPO(特定非営利活動)法人「平和の種」。
築80年以上という木造校舎をそのまま活用している異色の施設です。この場で、「ともにいきる」を理念に掲げ、障がい福祉サービス事業所「ハミングバード」を始めたのが、代表理事の恒遠樹人さん(50)です。恒遠さんは、高校教師から福祉の世界に飛び込み、理想とする「福祉」の在り方を模索し続けてきました。理想と現実のギャップに悩み、ついに48歳のとき、一念発起し現在の施設を起ち上げたのでした。


Q.なぜ今の施設を設立したのですか?
 福祉の世界で長年働いてきたのですが、人権意識が低い施設や、露骨に金儲けを優先している施設を多く見てきました。言葉では「施設と障がいのある利用者は対等です」といいながら、規則や力で抑え込んでいる世界にうんざりしたというのが正直なところです。それなら自分でやってみようと。


Q.高校教師から福祉の世界に転身したのはなぜですか?

 もともと教師になったのは、世の中でいわれのない差別を受けたり虐げられている人たちの立場に立って考え行動できる人間になりたいと思って、その手段として教師をやっていたので、よりそれができるのが障がい者福祉の世界だと思ったので、この世界に転身しました。


Q.この仕事をやってみてどうでしたか?

 障がいのある人たちと一緒にいて、初めて気付いたこととか発見したこと、学んだことが本当にたくさんありました。彼らは、障がいがあるがゆえに、社会の偏見とか厳しい家庭環境だったりとか苦悩はたくさんあるのですが、そんな中で、もがきながら元気になっていった利用者をいっぱい見てきました。そういった人たちと、少しでもつながりを持てる、少しでも支えあえる施設は、すごく必要じゃないかと思いましたね。

この施設「ハミングバード」では、利用者がやりたいこと、できることを仕事に変えていこうというコンセプトが基本で、現在は次の4つの活動を行っている。
調理や接客をする「幸せおひさまカフェ」、農業などを行うファーム「喜雨(きう)」、表現・創作の実験室「!?(いーきゅー)」、そして、手作り商品販売ショップ「te・te(てて)」。これらの活動から得た利益は、全て利用者の給与となる。

Q.この4つの部門にした理由は?
 こういった施設は、本来なら利用者一人ひとりの目標に合わせていくべきなのに、施設のスケジュールに利用者を合わせることが多いものです。しかし私は、本来の形というか、理想とする形をやってみたいという気持ちがありました。それで、先ず利用者に「あなたのやりたいことは何ですか?」、「あなたの好きなこと、興味・関心のあることは何ですか?」と問いかけることから始め、「じゃあ、それを仕事にしましょう!」というスタンスで取り組むことにしました。でも、何をしたいのかわからないという人のために、この4つの部門を作りました。

1995年に起きた阪神淡路大震災のとき、学生だった恒遠さんは、すぐさま現地に駆け付け、一カ月もの間、ボランティアとして活動しました。常に弱者や困った人たちのために尽くそうとしてきた彼に、福祉施設の意義を聞いてみました。

Q.社会にとって福祉施設の存在意義をどのようにお考えですか?
 福祉施設という名のもとに、障がいのある人や高齢者を、社会と切り離し、隔離しているような福祉施設は不要だと思います。福祉施設は、どんどん社会に対して開かれていかなければならないと思います。
 この仕事をしていてつくづく思うのは、人のつまづきや弱さでつながることの「強さ」というものをすごく実感しています。それが今の社会では、つまづいたり弱かったりすると、なかなか生きづらい。そうではなくて、つまづきや弱さは実は「強さ」になり、それがつながっていくことで社会がよくなっていくっていうことを、世の中に対して提示していくためにこの仕事は大事だと思う。社会の中でそういう役割を果たしていけるのではないかなと思う。

Q.この先の夢はなんですか?
 利用者の人たちが、カフェの仕事が面白いとか、絵描くのを面白いって言ってくれたりしますが、その人たちに利用者ではなくて職員ぐらいできるようになって、利用者で運営ができることですね。いろんなイベントとかを一緒にして、平和の種のブランドとかデザインができたり、利用者がみんなの前で自分語りをしたりとか…そういうことができていったらいいかな。
 それと、今は障がい者福祉のことだけを言っていますが、障がい者や高齢者だけの問題ではなく、例えばひきこもりも大きな問題です。障がい者手帳があれば施設に来ることができますが、ひきこもりの人はどこにも行くところがない。そういう人たちとも、うまくつながっていきたい。障がい者とか関係なくそういう人たちのやりたいこととか、夢とか追える社会ができればいいかなって思う。

恒遠さんのお話を伺っていると、「対等に支えあう社会」を本気で目指しているという熱い思いが伝わってきました。こういった真面目な施設を社会全体でバックアップしていくことが大切だと思いました。
最後に、恒遠さんはこう締めくくります。


『もちろん辛いことやしんどいことはたくさんあります。しかし、自分はこれをやりたかった。本当にやりたかったことができている今の自分は、夢の真っただ中にいます。』

                              (20213月取材)

障がい福祉サービス事業所「ハミングバード」では、利用者たちが作った魅力ある商品を販売しています。そして、ほっとできるカフェスペース「幸せおひさまカフェ」があります。ぜひ、立ち寄ってみてはいかがでしょうか。


『ハミングバード』

福岡県豊前市大字川内2344-3
TEL 0979-64-9661

恒遠樹人さん(1970年生まれ)
障がい福祉サービス事業所「ハミングバード」
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